寺尾聡
寺尾聡は新劇の大御所宇野重吉の息子として生まれ、若い時は演劇から離れたところで、グループサウンズの「ザ・サベージ」を結成して、ミューージシャンとして活躍していました。
「ルビーの首飾り」はナツメロの定番になった名曲ですが、最近でもリメークされて人気になっています。
「ザ・サベージ」時代の「いつまでもいつまでも」も大ヒットしましたが、グループサウンズの衰退とともに、寺尾聡もミュージシャンから、俳優にシフトするわけです。しかし親父の宇野重吉とは交わる事無く、石原軍団の一員となって、「黒部太陽」で俳優としてデビューし、「大都会」や「西武警察」などの石原プロ製作のTVドラマに長い間出演していました。
「ルビーの首飾り」もこの頃作られたもので、この時代は寺尾聡にとって充実した時代と言えるでしょう。
その後石原プロから離れた寺尾聡は、黒澤明監督の作品に起用される事が多くなり、石原プロ時代のイメージから脱却することが出来たと言えます。
「乱」、「夢」、「まあだだよ」などの黒澤作品に連続して出演し、黒澤組の一員と言うべき存在になりましたが、年とともに親父さんの宇野重吉に似てくるのは気のせいでしょうか。
俳優と言うのはある年齢を超えると、大体台詞なしの演技が出来るようで、高倉健でも同じですが、寺尾聡も表情やしぐさだけで、演技が出来てしまうのは、年の功と言うか、黒沢明監督の指導の賜物と言うか、寺尾明の精進の賜物と言うか、たいしたものです。
ただ親父さんの枯れた演技までには、今の寺尾聡の芝居は追いついてはいませんし、今の寺尾聡の年のころの宇野重吉の演技や独特の台詞回しやオーラが違っていました。
その分寺尾聡には音楽がありますから、イーブンかもしれません。
たまに若い頃の宇野重吉の映画を見てみると、寺尾聡の雰囲気がよく似ている事がお分かりになるはずです。
「半落ち」などの目の演技は、親父さんそっくりです。
音楽をやらずに寺尾聡が宇野重吉に師事して、新劇をやっていたらどうなっていたか想像すると、かえってつまらない役者になっていたかもしれません。
役者と言っても、最後に残るのはその人の生き様ですから、寺尾聡も紆余曲折しながら、遠回りで芝居の世界に辿りついたことは、結果論からすれば良かったのかもしれません。
しかし今の黒沢プロが作る映画は、黒澤明の二番煎じで、演出に冒険がありません。
黒澤監督ほど演出に冒険をする監督はいなかったのですが、晩年の黒沢風の映画を忠実にトレースするだけでは、とても黒澤監督の後継とは名乗れません。